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シムーン

そろそろストパン2期が始まる,ということで空戦百合SFアニメ「シムーン」を借りてきたよ!

オープニングの段階で平然と口づけを交わす美少女,曲面を多用した不思議メカ,女性声優が声をあてる成人男性キャラ,氾濫するテクニカルターム,鳴り響くタンゴ,制作スタジオディーン

うわぁ,素人お断り感ギュンギュン.

だが,ちょっと待って欲しい.見てみればすごく普通*1に人間ドラマを楽しめるアニメなのだ.

人は皆女性として生まれ,17になるときに自分で性別を選択する,という世界設定が面白い.そして素晴らしいのはそれがちゃんとキャラの行動に反映されていること.
渦中にある者に対しては,選ぶことへの戸惑い.あるいは,選ぶことを決めた性の呪縛.すでに決めた者に対しては,現在と過去の差に対する後悔.あるいは,戸惑い悩んだことへの追憶.
そういう細やかな心理が人間関係や事件によって移ろっていく様子が,声の演技に,何気ない挙措に見て取れる.思春期の少女特有の心の移り変わりを丁寧に描く,という百合アニメの特色と,設定という名の嘘を人間へ社会へと広げていくSFの特色.この二つが合わさった素晴らしい百合SFだった.

もう少しネタバレ込みの感想があるので折りたたみ.
ちょっと恥ずかしい話をすると,本作は僕の好きな「決めないことを決める」話だった.

登場人物であるシムーン・シビュラ達は,それぞれの事情を背負いつつも,社会参加や性別の決定に対して,思い,悩み,涙を流し,「わからない」を連発し,そして選択していく.
でも,大人にならず「永遠の少女」であり続けることを,選択しないでい続けることを,シムーン・シビュラ達はアーエルとネヴィリルに託した.それは「希望」なのだと.

なるほど,大人になりたくないのなら,孤独のうちに死ぬしかない.その苦い結論は作中でも現実世界でも多くの人間に適用される.でも,逃げ続けることが許される世界へと自分の意思で赴くことを「希望」として扱ってくれる.そのスタンスに救いを感じた.

労働者になり,自身の意識が変化していくことを嫌が応にも意識させられる時期にこの作品に出会えた.それはひとえに良い巡り合わせであったように思う.

*1:普通とは真実がすぐそばにあること