概ね,
ハーモニー映画化の陣容を見てると,"The Best and the Brightest"というフレーズが頭を過ってしまう.
— Aloe! (@maruiboushi) 2014, 10月 16
という第一印象からは外れていない.
とはいえ,etmlで叙述トリックかますような原作を相手に2時間でよくぞここまでと思う.
割引料金で見たのが申し訳なくなるくらいには良かった.
声について
良かったのは特にキャラクター.絵があって音があるというアニメの強みが十二分に生きていて本当に素晴らしかったと思う.
声優の選定の時点で勝ってる.演技もさることながら声を聞いた時点で「このキャラはこういうキャラ」という自分の思い込みにぴったり収まりストンと落ちる.
トァン役の沢城みゆき,オスカー役の榊原良子あたりは説明不要なまでの鉄板.
キアン役の洲崎綾もキルラキルを考えると納得できる.「あまり頭は良くないけれど,知性に頼らない鋭さを持っている.家庭的ではないけれど日常の象徴で,劇中失われて初めてその存在の大きさに気づく」という役どころで輝く.実にいい.
ミァハ役の上田麗奈については今まで演技をあまり聞いたことがなかったのでどうなのかなと思っていたが,声を聞いて納得した.幼いカリスマという立ち位置なので若手を持ってくるのは適っているし,訥々とした言い回しと甘い声に底知れなさが垣間見える.ゾクゾク来た.いい.
その他脇役もベテランを順当に.妥当順当をきっちりなぞるキャスティング.いい.
絵について
続いて各種デザインも奇抜に過ぎるかと思ったがすぐ慣れた.
世界観的には超落ち着く感じの建物がいっぱい並んで並びすぎてるからこの世界はクソという位置づけなので奇抜に思えてはいかんはずだけど,未来ではロボットに乗るときにエロいパイスーを着るのが一般的なのでヒワイな形状のビルが立ち並んでても普通なんだと思う.
服についても,何だこのコスプレみたいな服って思ったけど,未来ではロボットに乗るときにエロいパイスーを着るのが一般的なので多分あれが普通なんだと思う.28歳バリキャリCV沢城みゆきなキャラがこの衣装で足を組んで座ると考えるとデザインがキャラクターに結びつくことによる勝利を感じるのではないだろうか?それで許すよ……
原作だとラストシーンのミァハの服は民族衣装という触れ込みだったが,いのり……さん*1みたいな服が民族衣装というのは新しい.コーカサスは寒いのにあんな露出の多い民族衣装なんだ……きっと破廉恥民族なんだ……でも山ん中の少数民族だしもしかしてもしかするとそれが普通なのかもしれないし……PC的にエロいとか言っちゃいけないんだ……
AR表現についてはレンズを通してポンポンでてくるダイアログボックスが日本語メッセージなのが地獄感があっていい.ラテン文字や漢字が主体だと硬質でかっこ良くなりすぎる.ひらがなの当たりの柔らかさが,マイルドでともすれば野暮いUIとあいまって,お節介に殺される雰囲気にマッチしている.意図を汲みとっているようで嬉しい.
オーグ空間の表現,現実にテレプレゼンスでどうこうするなら色をつけない理由ってないけど,これは色無しで正解だった.半透明の映像に喋らせるという陳腐な絵面を表面上避けつつも,3Dモデルがあるからキャラクターの表情が見える.基本的に公,お仕事モードの表現なので,白一色で事務的な感じが出てていい.
ただし,ラシュモア山みたいなアレ,テメーは駄目だ
百合について
百合描写は増えていた.百合がなかったらハーモニーじゃないと思うし声もあって堪能したにはしたがやや直截に過ぎる印象を受けた.
百合アニメ好きだろ?ってヴァルキリードライヴマーメイドをお出しされた時の「違うよクソ!」っていう感情をコップに入れて同量の水を注ぎます.
コップの中身を半分捨てて捨てたのと同じ量の水を注ぎます.これを8回繰り返したものがこちらになります.という感じですかね(伝われ
— Aloe! (@maruiboushi) 2015, 11月 14
くらいのかすかな違和感が残った.
彼女らの関係は,息苦しさからの逃避としての代償行為とか,不健全さへの憧れとか,思春期特有の不安定さとか,あとは超然とした態度にあてられたとか,そういう幾つもの要因が複合したものであって,その関係でキスしたり好きって言わせたりするのは,大筋合ってたとしても細部を宿った神ごと切り捨てているのではなかろうか.
月村先生来てくれーっ!アニメ脚本に帰ってきてくれーっ!
原作との差異について
ラスト付近の改変は,個人的には好きではない.これではどうして撃ったのかという動機がぶれる.原作どおりに動機を復讐とするとややしょっぱいという判断も納得できるが,その塩辛さも含めて好きだった.キアンや親父とのシーンの積み重ねを二時間で出来ない以上,ここだけ変えるわけには行かなかったのだろう.
苦心はわかるが,やはり違う.
「天使が降りてくる」直前のシーン(バンカーで看取るとこ)がないのも,やや消化不良.CGマップと風景で察しろというのは洗練されていたかもしれないが,ここはもう少し陳腐に別離と「さよなら,わたし」してくれてもよかったんだよ?
また,原作中の言い回しは好きだし小説だから仕方ないと思うが,映像に落ちてしまうといかんせんバーバル,特にモノローグに頼り過ぎる印象が拭えない.原作ものの悲哀というか,アニメ化不可能とか可能とかそれ言ったら全部不可能になるだろくらいの思いもあるが,この映画化は戦術的には勝利してるが戦略的には何で映画化したんだ……という伝統のアレ.
自分は「幸せなアニメ化」というフレーズが「すべてのアニメ化は失敗である」という絶望的な原則を変える突破口になると思ってる.何がそれを分かつのかというと,それはもう「愛よ!」としか言いようが無いのだけれども,果たしてハーモニーは「幸せなアニメ化」だったのだろうか?
Noではないと思いたい,でも,自信を持ってYESとは言えない.