天の光はすべて星
- 作者: フレドリック・ブラウン,田中融二
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/09/05
- メディア: 文庫
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ハードSFでもなければワイドスクリーンバロックでもない.精緻な科学考証に裏付けられてもなければ,矢継ぎ早の超展開もない.人物描写も類型的で,緻密な心理描写が売りってわけでも多分ない.なのになんでこんなに惹かれるのかというとそれはとてもロマンチックだから,としか言いようがない.
この小説は50をとうに過ぎたオッサンが夢に向かってがむしゃらに突き進んでいくお話である……ってこの段階でかなりロマンあふれるお話であることがわかると思う.そこに志を共にする悪友や,最大の理解者たる恋人が現れるとなればこれはもうロマンチックが止まらない.
特にテレポーテーションの説明のくだりなんか,劇中では与太話なのに,そこまで読み進めてきた読者にとっては夢あふれる挿話に早変わり…….悔しいけどすごくいい話なんだ.
終盤に一ひねりあるけど,その一ひねりさえスイカに塩ってやつでロマンチック分を増幅させてるからすごい.
「○○は男のロマン」ってフレーズの汎用性の陰で俺は男じゃないのか的な疎外感を覚えたことがあるので,そのフレーズは使わない.でも,人類の半分にこの小説の良さを理屈抜きで共有してくれる素地があったら良いのに,とつい思ってしまう熱狂と魅力がこのSFにはある.
というわけで,ロマンチストにとっては「夏への扉」に並ぶぐらいおいしいSFでした.
余談だけど,巻末エッセイでグレンラガンの最終回のタイトルのネタ元がこれだった事を知った.見てなかったとはいえ,アンテナ低すぎ.